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コラムcolumn

2022.9.10

エコノミークラス症候群

夏休みを海外で過ごした方も多いのではないでしょうか。ところで「エコノミークラス症候群」という言葉を聞いたことはありませんか?どんな病気かご存知でしょうか? 飛行機の座席に長時間座っていると、重力によって下肢の静脈に血が溜まります。さらに、大腿部の深部静脈が圧迫されるので、下肢の静脈の流れが悪くなり、うっ血が進みます。そうすると静脈内に血栓ができ、これがはがれて心臓に飛んで肺動脈に詰まってしまいます。重症例では突然の呼吸困難、胸痛、意識消失、心肺停止を招き、死亡する事も稀ではありません。これがエコノミークラス症候群です。つまり、その本体は下肢の深部静脈血栓症と急性肺血栓塞栓症の合併です。最初にエコノミークラスの乗客症例が報告されたことからこの名が付きましたが、ファーストクラスでも起きているので、「ロングフライト血栓症」と呼ぶ人もいます。血液はスムーズに流れていないと固まる性質があります。普段は歩いたり運動をして下肢の筋肉を動かしているので、これが一種のポンプとなり、静脈の血を心臓の方へ上げてくれます。しかし、狭い機中では歩き回ることもできず、足は降ろしたまま座っています。また、脱水は血液を濃縮して血の流れを悪くします。飛行時間が長くなると、機中は湿度20%程度の乾燥状態になるので、乗客は脱水になりがちです。すなわち、飛行機の中は深部静脈血栓症を起こし易い環境と言えます。 エコノミークラス症候群は、長時間飛行を終え座席から立って歩き出して間もなくの時間帯に頻発しています。急に下肢の運動をすると血栓がはがれ易く、心臓へ戻る静脈の流れも増えるためです。飛行時間との関係では7~8時間以上で起き易く、20時間を越えると急に頻度が増します。国土交通省所管の財団法人「航空医学研究センター」の調査結果によると、エコノミークラス症候群の発症は1993年から2000年までの8年間で44例(うち4人が死亡)、その約9割(40人)が女性でした。平均年齢は61歳と高齢者に目立ち、平均搭乗時間は11.6時間で、機内で席を離れた回数は約0.5回と、半数近くの方が飛行中に1回も席を立っていませんでした。また、31例がエコノミークラス、6例がビジネスクラスでした。同センターでは、「高齢者、女性、離席回数の少ない人に発症しやすい傾向が明らかになった。」と結論づけています。 では、予防はどうすれば良いでしょうか? 一般的な対策として、 1.水分を良く摂って脱水を防ぐ 2.アルコールやコーヒーなどのカフェイン飲料を飲み過ぎない(これらはその利尿作用のため脱水を助長する) 3.座席で足の運動やマッサージをする 4.できれば機内を歩く(飛行機が揺れていない時) 5.身体を締め付けないゆったりとした服装にする 6.弾性ストッキングを履いて下肢の静脈うっ血を防ぐ などがあります。 但し、3.については、飛行中にふくらはぎの腫れ、痛み、発赤が出た方は深部静脈血栓症を発症した可能性があるので、足の運動、マッサージはしないで客室乗務員に知らせて下さい。 さらに、薬物療法として、低容量のアスピリンがある程度予防効果があるとされています。中等度の深部静脈血栓の危険因子を持つ方(下肢静脈瘤、心不全、6週間以内に受けた下肢の手術・外傷・骨折、経口避妊薬を含むホルモン療法など)で適応が有ります。禁忌事項がなければ、搭乗の数日前から飛行を終えて3日過ぎぐらいまで服用します。また、高危険因子を持つ人(深部静脈血栓症や急性肺血栓塞栓症の既往歴、癌等の悪性腫瘍、6週間以内の大手術(脳外科・心臓外科・整形外科・婦人科・泌尿器科手術)の既往、先天性血栓形成素因)では、搭乗前にヘパリンの皮下注射をすることもあります。これらの薬物は誤って使用すると大出血など副作用の危険がありますので、上記血栓症の危険因子を持つ方は、あらかじめ普段かかっている医師に相談して下さい。