夏と言えばスポーツの盛んな季節です。この時期に注意しなければいけない疾患の一つに熱中症があります。熱中症は高温環境下で身体に起こるさまざまな障害の総称です。最も軽いのが熱痙攣で、これは高温環境に長くいると大量発汗が起こり水分だけでなく塩分も失い、手足や腹筋などに筋攣縮(こむら返り)を起こす障害です。一過性のめまい、ふらつきや失神が起きる熱失神になる場合もあります。これは、体表から放熱して体温を下げようと血流分布が体表近くに多くなるため脳への血流が減った症状です。脱水がさらにひどくなると脱力、倦怠感、頭痛、吐き気などが生じる熱疲労になります。最も怖いのが熱射病で、深部体温が40℃以上に上昇し、もはや脳の体温調節中枢である視床下部の働きが破綻してしまった状態です。こうなると高体温なのにむしろ発汗が止まり、体温がさらに上昇して意識障害、痙攣、肝障害、腎不全、血液凝固障害などの多臓器不全になります。これらの反応は順番に起きるとは限りませんし、一つの状態に留まっている訳でもありません。
熱中症は、当然気温の上がる7月、8月に多く、中でも晴れた日に増加する傾向があります。一般に夏の炎天下でスポーツや労働をする若い人の病気と取られがちですが、
女性では70歳以上の高齢者が室内の安静時で発症しているのが目立ちます。これは一人暮らしの高齢者の増加、密閉性の高い家屋での窓を閉め切った状況、高齢者の冷房を嫌う傾向、高齢化に伴う高温環境への生理的適応力の低下などによると思われます。高齢の方は熱中症にかかり易いので周りの人も含めて注意しましょう。
また、
通気の悪い体育館や室内温が高くなくても高湿度のため発汗による熱放散が妨げられる環境では熱中症が発生しています。
予防はよく水分を補うことです。それもこまめに補給することが大切です。例えば、発汗による脱水で体重が2kg減少したとして、一度に2kg分の水分は飲めません。せいぜい一度に飲める量は800mlから1200mlぐらいです。たくさん飲んだつもりでもまだ、0.8kg~1.2kgは脱水したままです。ところが、その都度頻回に水分を補えばここまで脱水にならなくて済みます。発汗が多量の場合は塩分も喪失しますので適度に塩分も補いましょう。
室内では通気をよくしたり、冷房を入れたりしましょう。スポーツでは徐々に強度を増して高温環境に馴れさせることです。合宿ではいきなり激しい運動をさせてはいけません。体調の悪い時には身体の熱に対する適応力も衰えているので運動は避けて休みましょう。
高温、多湿の条件下でめまい、ふらつき、倦怠感などが起きた段階で熱中症の初期ではないかと疑うことが最も大切です。疑ったらその場を離れて、動けるうちに早めに医療機関を受診して下さい。熱疲労や熱射病を疑う人がいたらすぐに日光の当たらない風通しの良い所や冷房の効いた部屋に移します。そして早く救急車を呼びましょう。その間、
服を脱がせてあおいだり水をかけたりして早く体を冷やします。氷嚢を腋下、頚部、股の付け根などに置いてもよいでしょう。氷で四肢をマッサージしても良いです。意識がしっかりしていれば、水を飲ませて少しでも脱水を是正します(スポーツドリンクがあれば良いですがこれにこだわらなくても良いです)。