2022.10.30
高齢者の入浴に係わる事故
毎年、冬季に高齢者の入浴に係わる死亡事故が問題になります。 これは、西欧など諸外国ではほとんど見られず、日本固有の現象で、42℃以上の高温浴や肩までつかる全身浴を好む、入浴時間が長いという他のアジア諸国でも例外的な日本の入浴習慣が関係しているようです。季節では、11月から3月までの寒い季節に多発しています。入浴中の急死だけでなく、入浴後就寝中の心筋梗塞、脳梗塞など血管障害による死亡も見られます。
入浴中の急死症例の法医学的検討では、多くが浴槽内で起きており、心筋梗塞などの心疾患、脳出血、脳梗塞などの脳血管疾患、溺死が三大原因となっています。
冬季では脱衣所が寒く、そこで裸になると末梢の動脈が収縮するため急速に血圧が上昇します。高温浴の場合、入浴直後は皮膚への温度刺激で交感神経が刺激され、さらに血圧が上がります。その後、全身の皮膚や筋肉の末梢血管が拡張するため急速に血圧が下降します。もし、ここで急に立ち上がろうものなら、一気に足の方に静脈の血液が落ち、脳への血流が減るため、立ちくらみや意識消失を起こしかねません。
これら一連の急激な血圧変動は、一般に高齢者で起き易いのですが、高血圧や糖尿病などを合併しているとさらにその程度が大きくなります。急激な血圧上昇で脳出血の危険が増します。また、全身の血管拡張による血流分布が変化する ため、重要な心臓、脳への血流が低下してしまいます。もともと動脈硬化で心臓や脳の血管が狭ければ狭心症、心筋梗塞や脳梗塞の原因になります。入浴中にこれらの疾患が発生して意識が薄れると結果的に浴槽内で溺死することになると考えられます。 さらに、高温浴では、血液の中の血小板という血を固まらせる細胞が活性化されて血管内で凝固し易くなります。 また、発汗で脱水となり、血液の粘度が増して流れが悪くなります。高齢者では、喉の渇きを感じる程度が弱く、充分な水分を 採らないため脱水になりがちです。これら血小板の活性化、血液粘度の上昇などが加わり、入浴後数時間しても心筋梗塞、 脳梗塞の危険性が続きます。
予防対策としては、
1.風呂場、脱衣所をあらかじめ暖めておく。
2.湯の温度は38℃~40℃程度にする。
3.深く湯をはらず、腋の下ぐらいまで浸かる(これでも充分上半身は温まります)。
4.浴槽に腕を掛けて、万一の溺死を防ぐ。
5.カラスの行水を心がけ、長時間湯につからない。
6.飲酒後や、食後すぐには入浴しない。
7.深夜に入浴しない。
8.高齢者が入浴している間は、家族が声をかけたり、見に行ったりして注意する。
9.入浴後は、水分を充分取る。
などがあります。