肥満とは体脂肪が過剰に蓄積した状態のことで、美容上の問題は別として、これのみでは病気とは言えません。
病気としての肥満症とは、肥満が原因となる、もしくは肥満が関連する疾患が合併するもの、あるいはその合併症が予測される場合で、治療に減量を必要とする状態を言います。具体的には、体重(kg)を身長(m)の二乗で割って、身長あたりの体重指数(BMI: body mass index)を出します。例えば、身長170cmで体重70kgの人のBMIは、70÷(1.7×1.7)=24.2になります。日本人では、25以上が肥満です。
肥満症は、
BMIが25以上の人で、さらに (1)
糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症・痛風、心筋梗塞・狭心症、脳梗塞、睡眠時無呼吸症候群、脂肪肝、変形性関節症・腰痛症、月経異常のいずれかがある人、または (2)
ウエストの胴回りが男性で85cm、女性で90cm以上ある人です。これらウエスト周囲径が長い方は、上記 (1)の疾患を合併しやすい内臓脂肪蓄積型肥満で、お臍の高さで腹部CTを撮ると、内臓の脂肪面積が100cm2を超えています。
何故肥満が良くないのでしょうか?
これは、上記の合併疾患のため日常生活に支障が出たり、さらには死亡率が高くなるからです。BMIで見ると22前後が最も死亡率が低いので、これを標準体重のBMIとしていますが、25以上では死亡率が急に高くなります。肥満の無い糖尿病の人の死亡率を1とすると、肥満のある糖尿病の人では男性3.83倍、女性で3.72倍になります。
他に心筋梗塞、脳血管疾患の死亡率が高くなるのはもちろんのこと、睡眠時無呼吸症候群による自動車事故での死亡率も上昇するという統計さえあります。
実は、日本人は肥満に弱い民族です。先ほど日本人では肥満をBMI25以上と述べましたが、世界保健機構(WHO)では、30以上と定義しています。この違いはなぜでしょう。
日本人ではBMIが25以上になると、標準体重のBMI22に比べ、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの疾患が2倍になります。これに対し欧米人では、BMI30以上でこれら合併症がようやく2倍になります。日本人は、欧米人より膵臓から出るインスリンホルモンの分泌能力が弱く、極端な肥満でなくても糖尿病になり易い傾向があります。
最近になって遺伝子レベルでも日本人の特徴が明らかになってきました。脂肪組織にあって脂肪を分解したり、熱を作ったりする蛋白質がいくつか見つかっています(β3アドレナリン受容体蛋白、脱共役蛋白質1など)。これらの蛋白分子は、たとえ身体活動をしていなくても生命維持のために最低限必要な基礎代謝のエネルギーに関係しています。人類は、最近まで長い間飢餓と直面する生活をしてきました。そのような環境では、運良くご馳走にありつけた時は、余分な栄養はせっせと脂肪に換えて身体に貯め込み、消費エネルギーは最小にして、食べ物がない時には蓄えた脂肪を小出しに使うほうが生存に有利な訳です。前述のエネルギー生産に関係した蛋白分子の設計図である遺伝子が変異して、脂肪分解や熱生産を抑えて基礎代謝を低くする性質を得た人が、飢餓でも生き延びてきたと考えられます。日本人では、このようなエネルギー倹約タイプの遺伝子変異を持つ人の割合が欧米人の2~3倍も多いことが判りました。従って、飢餓には強い性質が、反対に飽食の時代ではなかなかやせられず、不利になってしまいます。
次回(その2)は、運動とダイエットの理屈についてお話します。