今年は11月から例年になく異常なノロウイルスの流行を見ています。当院でもたくさんのお腹をこわした患者さんが来られます。吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、人によっては発熱も。個々の症状の程度はさまざまですが、多くは5日以内にほぼ回復しています。ところが中には、なかなか良くならない、一旦改善したのにまた悪化したと言って来られる方がいます。ノロウイルスに代表されるウイルス性胃腸炎に限らず、夏場に多い細菌性の感染性胃腸炎であれ、暴飲暴食による胃腸炎であれ、そういう長引く患者さんの話を聴いていてつくづく思うのは、
症状が有りながら皆何かしら食べている ということです。何故食べるのでしょう。本当にお腹が空いていたのでしょうか?その理由を尋ねると、「食欲?そんなに無いけど食べないと元気が出ないと思った。」、「食べたくなくても食べなきゃ体が持たないよ、働いてるんだから」、「体力を早く回復したいので」、「あまり欲しくなかったけど家族や回りの人が食べろと勧めた」などの返事が返ってきます。「それじゃ、食べて体力も回復し元気になりましたか?」と聞けば、「そうじゃないからまたここに来てんだろ。そっちが出した薬飲んでも吐き気は止まったが、まだ下痢が続くし腹も痛い。」とのこと。
なぜ良くならないのでしょうか。結論を言いましょう。
食べるからです 。そうして長引かせたり、再び悪化させたりしているのです。
感染性胃腸炎(細菌、ウイルスを問わず)であれ、食べ過ぎ飲み過ぎであれ、お腹をこわした人は食べてはだめです。食べながら良くしようなんて虫の良い話はそうそうありません。原因を問わず胃腸が炎症を起こしていたら先ず休めましょう。胃腸を休めるって何だと言えば、食べないことです。足をくじいて捻挫した人から、「縄跳びや走る練習をしているけどなかなか良くならないのだが」と相談されたらどう思います?バカじゃない?先ず休めなきゃだめじゃんって思うでしょう。それと同じです。動物がお腹をこわしたら食べずにじっとしてエネルギー消費も抑えています。回復してきたらのそのそ動き出して何か食べ始めます。彼らが欲しくないのに頑張って食事をするなんておそらくないでしょう。本当は人間も動物のように身体の要求に素直に従って無理をしないのが理想なのですが、人間の世界ではそうも言っていられない事情がいろいろあって大変です。それに、大脳皮質がちょっと発達した位のくせに変な浅知恵で悠久の自然の摂理に逆らうから、自ら好んで体につらい負担を強いています(少々オーバーですか?)。
要は、
脱水と低血糖を防いでいればお腹はそのうち良くなります 。全く改善せず1週間以上も症状が続けば他の疾患や病態も考えてさまざまな検査やその診断に合わせた特別な治療が必要になることもあるでしょうが、そういう特殊な疾患は稀です(例として海外旅行者の下痢症、自己免疫による炎症性腸疾患、HIV感染症に伴う下痢など)。従って、水分だけ摂っていれば良いのです。但し、水分と言っても下痢をしている場合は、冷たく冷やしたもの、牛乳(これは温めても×)、アルコールはだめです。吐き気がある人はコーヒーも止めましょう。これらを避ければ、スポーツドリンクでも、ジュースでも、お茶でも、さ湯でも、具を入れてない味噌汁やスープでも何でも構いません。お腹の薬は、整腸剤、胃薬、抗生剤などを含めてすきっ腹で飲んでも構いません。少量でも食事を摂ってからでないと飲めないなんてことはないので大丈夫です。
こうして下痢、腹痛、吐き気が治まって、なおかつ空腹をしっかり感じたら食べ始めて良いでしょう 。ちょっとお腹空いたかな、まあ食べようと思えば食べられるけど位の空腹感ではまだ早いです。最初は残渣が少なくすぐエネルギーになってくれる炭水化物(お米、パン、麺類、お煎餅、ビスケットなど)だけ食べます。これらを食べても大丈夫なら次に魚の煮付け、卵(生卵はダメ)、チーズ、はんぺん、プリン、ヨーグルトなど消化の良い蛋白質の食品を食べます。それでもOKなら繊維質のもの(フルーツ、野菜、きのこ、海草、豆類など)や脂肪の多い食品などを加えた普通食にしていきます。くれぐれも食事はあわてないで下さい。良くなればまたいくらでも食べられますから一時がまんしましょう。急がば回れです。