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コラムcolumn

2024.7.27

吸入ステロイドの副作用-その① 全身性の副作用について

時々、喘息の患者さんから吸入ステロイドの副作用について質問があります。ステロイド薬については、アトピービジネスの影響もあるせいかさまざまな噂や体験談が錯綜して恐怖心を駆り立てられます。そのため、たとえ吸入と言えど「ステロイド」と聞くと何となく怖い、長く使うといつかは変なことになるのではと心配になるというものです。 確かにステロイドについてこれだけいろいろ言われていれば心配になりますよね。そこで今回は吸入ステロイドの副作用についてお話します。 先ず始めに認識して頂きたいことは「吸入ステロイドは現在の喘息治療の根幹をなす薬剤だ」ということです。喘息は一種のアレルギー性炎症が気道に起きている疾患です。現在ある喘息治療薬の中で、このアレルギー性炎症を最も強く確実に抑えるのが副腎皮質ステロイドであり、それを内服や注射のような全身投与でなく、気管支そのものに直接到達させることで副作用を大幅に軽減させることに成功したのが吸入ステロイドです。この薬剤は、普段の喘息症状の軽減とそれによる日常生活の質の改善、喘息発作による救急室受診や入院回数の減少、さらには喘息死亡率の減少に大きく寄与しています。種類はいろいろありますが、一般的には安全性の高い薬剤であり、小児から高齢者まで、妊婦、授乳婦でも使えます。しかし、他の薬剤同様、薬である限り副作用が無い訳ではありません。そのほとんどは軽微なもので、むやみに怖がることはないのですが、時に日常生活に支障となるようなものがあります。 吸入ステロイドの副作用には大きく分けて全身性のものと咽・喉頭などの局所性のものがあります。 少し長くなりますので、全身性副作用と局所性服作用の2回に分けてお話します。 今回は全身性副作用についてです。 ステロイドの全身性副作用は、既に内服薬については確立されております。その類推から吸入ステロイドでも同じような副作用が起こるかも知れないといろいろ世界中で調べられました。必ずしも決着が着いたとは言えないものもありますが、以下のような副作用が報告されています。代表的なものは、①副腎皮質からのステロイドホルモン分泌抑制、②骨密度低下、③小児の成長障害、④皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること)や皮下出血、⑤白内障 です。 以下、順を追ってお話しましょう。 ①の副腎皮質のステロイド分泌抑制とは、元々腎臓の上方に副腎というホルモンを分泌する臓器があるのですが、身体の外から副腎皮質ステロイドが入って来ると、その副腎が怠けて本来の副腎皮質ステロイドであるコルチゾールの分泌を少なくしてしまうというものです。このホルモンは、さまざまなストレスから身体を守る大事な働きがあります。肺炎などの重大な感染症、手術などの大きなストレスが身体に掛かった時にこのホルモンが充分に出ないと、全身倦怠、脱力、吐き気、低血糖、低ナトリウム血症、血圧低下によるショック状態などの副腎不全を引き起こします。 吸入ステロイドが高用量、例えばブデソニド(商品名:パルミコート)1600μg/日やフルチカゾン(商品名:フルタイドなど)1000μg/日でないと副腎皮質からのコルチゾール分泌能力は低下してきません。たとえ起こっても多くは軽度の低下で、臨床的に症状が出たり治療を要することはありません。但し、海外からの報告ですが、上記以上の大量吸入では、小児でも成人でも副腎不全になった例があります。従って、高用量を長期に続けている患者さんや内服するステロイドを頻繁に併用している患者さんでは問題になることがあります。 ②の骨密度低下は、副腎皮質ステロイドが、骨を作る細胞の働きを抑え、反対に骨を溶かして吸収する細胞の働きを活発にすることから起こります。この副作用は、多くは女性において問題となり、総投与量、投与期間、内服するステロイド薬との併用などが関係しているようです。しかし、さまざまな研究論文を詳細に調べた結果、ベクロメサゾン(商品名:ベコタイドなど)に換算して、400~2000µg/日の中等~高用量でも腰の背骨(腰椎)や、大腿骨の骨密度が低下しないとの解析報告があります。また、現在まで吸入ステロイドのみで明らかに骨折の頻度が増えたという報告もありません。従って、吸入ステロイドで骨密度が減る可能性はありますが、それが将来骨折に結びつくかは現時点でははっきりしていないようです。安全策としては、吸入ステロイドを使用している閉経後の女性で骨密度が低下している方は骨粗鬆症治療を併用されるのがよろしいでしょう。その場合の併用薬は、ビスフォスフォネート製剤(商品名:ボナロン、フォサマック、アクトネル、ベネットなど)が効果が確実で良いと思います。男性では吸入ステロイドと骨密度低下との関係は明確ではないようです。 ③の小児の成長障害については、②の骨密度と同様、骨に関係するもので、骨の成長が抑えられ、低身長になる可能性を危惧するものです。これについてもいろいろな研究がなされていますが、結論を言いますと、小児にとっての高用量、具体的には、たとえばフルチカゾン(商品名:フルタイドなど)を例にとると500µg/日以上でなければまず安全です。一般的に吸入ステロイドによる成長障害は短期的には有り得ますが、長期的に見ると吸入ステロイドを使用していない小児と比較して成人になった時の最終成長に変わりがないとされています。 そもそも小児期の慢性疾患の多くが成長を遅らせる危険性がありますので、喘息自体が重症であれば、それが原因で身長が伸びないことがあります。むしろ積極的に吸入ステロイドを使用し、喘息そのものを良くすることで身長の伸びが回復したという報告がありますので、過度に低身長を心配する必要はありません。 ④皮膚が薄くなる菲薄化や皮下出血し易くなる副作用は、ステロイドの蛋白質合成抑制作用により皮膚のコラーゲン線維等が少なくなるために起こります。吸入ステロイドでも中等~高用量の使用、長期間の使用、高齢者、女性で起こり易くなります。 私、院長も気管支喘息持ちで、かれこれ20年以上、中~高用量の吸入ステロイドを使用していますが、最近ちょっとした打ち身などで直ぐ皮下出血するようになったと実感しています。年のせいかもしれませんが。今のところ、それ以外の他の部位からの異常出血はありません。皮膚の毛細血管が弱くなるのは決して良いことではありませんが、あの発作で苦しむよりはまだましだと考えています。 ⑤の白内障については、弱いながら吸入ステロイドと関係ありそうだと考えられています。小児では問題ありませんが、中年以上の成人では、白内障の頻度が増すとする報告があります。 しかし、ステロイドの点眼や皮膚への塗布で殆ど白内障になることがないのと同じように、吸入ステロイドによる白内障も稀なものと考えられます。 さて、次回は、吸入ステロイドによる咽頭、喉頭など局所性の副作用について解説します。