内科・呼吸器内科・皮フ科・麻酔科(ペインクリニック内科)・リハビリテーション科松田クリニック

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コラムcolumn

2024.7.28

吸入ステロイドの副作用-その② 局所性の副作用について

今回は、吸入ステロイドの局所性の副作用についてのお話です。 局所の副作用は吸入という薬剤投与方法からくる独特のもので、①声枯れ、②口腔、咽頭、食道のカンジダ症(口腔内には誰にでもいるカビの一種)、③咳などです。 局所の副作用は、全身性のものと比べれば重大性が低いと医療者側は考えがちですが、患者さんにとってはつらいですし、それで吸入薬を途中で止めてしまい、喘息が悪化する原因ともなるので看過することはできません。 ①の声枯れは、局所の副作用では最も多く、5~50%の患者さんに起きるとも言われております(声枯れの定義や調査方法によって発現頻度が大きく変化します)。これは喉頭にステロイドが付着して喉頭筋の障害が起こり、その結果筋力が低下して発声時に声帯を閉じる方向にうまく動かせなくなることによります。他に、後に述べます声帯のカンジダ症、吸入ステロイドの添加物や溶剤の刺激でも起きるとされています。 この声枯れは、㋐吸入量が多いほど、㋑フルチカゾンを含む製剤を使用(商品名:フルタイド、アドエアなど)、㋒高齢者、㋓定量噴霧式製剤(噴射式のエアロゾル製剤)を使用している患者さんでは、スペーサーという補助器具を使わず直接吸入するなどで頻度が増します。 吸入後のうがいは、次に述べるカンジダ症の予防には効果的ですが、残念ながら声枯れには効果がありません。もし、うがいしながらその水を喉頭まで降ろして行き、そこに付着した薬を洗い流そうとしたら、むせてしまってとてもできません。 声枯れへの対策として、(1)フルチカゾンを使用している方であれば、他の吸入ステロイドに変えてみる(特に、後に述べるシクレソニドという吸入ステロイドは声枯れ、その他の副作用が出にくいので良いと思います)、(2)定量噴霧式製剤をお使いの場合は、できるだけスペーサーという吸入補助器具を使用して喉頭への薬剤付着を減らす、(3)喘息が悪化しない程度にできるだけ吸入量ならびに吸入回数を減らす、(4)そのために喘息自体が悪化することが無いように長時間作用型吸入β2刺激薬(一般名:サルメテロール、商品名:セレベント)や抗ロイコトリエン拮抗薬(商品名:シングレア、キプレス、オノン等)などの併用も行うなどの工夫が必要になります。吸入ステロイドを一時的に中止すると声枯れは急速に改善することが多いのですが、喘息の悪化が懸念されますので、主治医に相談せずに安易に中止することは避けて下さい。1日おきの吸入でも良いですから継続をお勧めします。 ②の口腔、咽頭、食道のカンジダ症は、粘膜に付着した吸入ステロイドのため、粘膜局所の免疫力が落ちて、口のなかには誰でもいるカビの一種であるカンジダが生え易くなることによります。頻度は報告によってまちまちですが、喉の奥や舌に白い苔状のものが付着して喉が痛くなる、声が枯れる等の症状を伴う頻度は多くはありません。一般的に吸入の用量が多いほど頻度が高くなります。口腔、咽頭カンジダ症の予防としては、吸入直後のうがいが効果的ですので、吸入したらうがいを励行しましょう。また、食道カンジダ症については、薬剤を局所の副作用の少ないもの(シクレソニドなど)に変更する、吸入時間を変更し、眠前には行わず、朝、夕どちらも食前にするなどの工夫が必要です。吸入後に食事をすると食道内のステロイドが飲食物で洗い流されるので食道カンジダ症の頻度が減ります。 実際に口腔、咽頭、食道のカンジダ症になった場合は、抗真菌薬のゲル、シロップ、内用液などを口腔内に満遍なく行き届かせ、その後ゆっくり嚥下する治療でほとんどが治ります。例として、フロリードゲル経口用(一般名:ミコナゾール)、ファンギゾンシロップ(一般名:アンフォテリシンB)、イトリゾール内用液(一般名:イトラコナゾール)などが用いられます。 ③の咳は、それ自体喘息の症状の1つなので、喘息の悪化かどうか鑑別する必要があります。他の喘息症状が改善しているのに、吸入ステロイドを吸った直後にだけ咳がでるようなら、それは吸入ステロイドによるものと考えてよいでしょう。あまり頻度は多くないですが、確かにあります。皮肉なことに、定量噴霧式の吸入ステロイドを使用している患者さんでは、声枯れや口腔・咽頭カンジダ症の予防には効果的なスペーサーの使用が、咳については反対に出易くしてしまうようです。これは私、当院院長も経験しておりますが、こんなものかと慣れてしまえば平気です。どうしても咳がつらい場合、薬剤を変更する、スペーサーを一時中止してみるなど工夫を要します。 ここまでで少し注意しておきたいことがあります。局所の副作用対策の1つとして、吸入ステロイド薬の変更もあると述べてきましたが、副作用が出ていない方は、現状のものを使い続けて一向に構いません。何も問題がないなら、より副作用の頻度が低いと言われている薬剤に変更しなけれがいけないと言う訳ではありません。基本的に吸入ステロイドの優劣は大きくありません。薬剤自体の薬理学的な特性、吸入された際の薬剤の粒子の大きさ、添加物や溶剤、吸入方法などさまざまです。ある人にとって吸入し易くて良い薬でも、他の人には大きすぎて携帯に不便だなどいろいろな事情もあって良くないかもしれません。要はご自分にあった吸入薬を使って頂き、不都合がなければそれで良い訳です。 最後に、一言。 今までいろいろと副作用について述べて来ましたが、患者さんによってはちょっとしたことでも、「副作用が出た!」と言って吸入ステロイドを止めてしまう方がいらっしゃいます。中には全く関係していないだろうと思われるものまで副作用のせいにしていることがあります。本当に副作用なのかどうか自己判断で中止する前に主治医に相談してみましょう。基本的に吸入ステロイドに関係した副作用の多くは軽微なものですし、対策がない訳ではありません。これらの副作用よりは喘息の悪化の方がずっと生活の質を落としますし、ひいては重症発作となって命に係わることになるかもしれません。こちらのほうが怖いです。今では日本の喘息死も年間2000人台に減ってきましたが、まだまだ欧米よりは多いです。従って、いたずらに副作用を怖がって、喘息のコントロール状態を悪化させてしまうのは本末転倒です。大事なのは、これらのことを踏まえた上でどの辺で妥協するかです。自己判断で吸入ステロイドを中止するのはそれなりに危険を伴うものと思って下さい。何か心配なことがありましたら即中断せず、その前に主治医に相談してみましょう。いろいろ対策を考えてくれるはずです。 以下はおまけの情報です。しばしば登場してきたシクレソニドという吸入ステロイド薬の特徴を解説したものです。 シクレソニド(商品名:オルベスコ)は、日本では2007年6月から販売されるようになった新しい定量噴霧式(エアロゾルタイプ)の吸入ステロイドです。 特徴 その1:噴射された薬剤の粒子径が平均1.1µmと大変小さいため、肺への到達率が52%と高い反面、喉頭に付きにくくなっています。 その2:この薬は肺のエステラーゼという酵素で加水分解されて始めて活性化されたステロイドになります。従って、喉頭に付着した薬剤はほとんど活性化していまん。このため声枯れやカンジダ症などの喉頭への副作用が現在使用できる吸入ステロイドの中では最も少ないという利点があります。 その3:活性化したステロイドが、肺組織の脂肪酸と結合して肺組織内に長く留まるので、作用時間が長く、400µg/日までなら1日1回の吸入で良いことです。但し、800µg/日の高用量では朝、夕の2回に分けて吸入します。 その4:肺から吸収された薬剤は血液中の蛋白質と結合し、99%がステロイドの活性を失ってしまいます。また、飲み込まれて消化管から吸収された薬剤も肝臓で速やかに分解されて不活性物質になります。以上から全身性の副作用が出にくいとされています。