2024.3.21
高齢者の気管支喘息-その1
日本は今後、益々高齢化が進み、気管支喘息診療でも高齢者の問題が大きなウェイトを占めるようになると思われます。
近年、わが国では他の先進国と同様に気管支喘息の罹患率が増加していますが、65歳以上の高齢者ではその傾向が顕著です。喘息死亡率は、1990年代後半より徐々に低下し、最近は人口10万人当たり4人弱と他の先進国に近づきつつありますが、高齢者での喘息の死亡率は依然として高く、60歳以上の方が約80%を占めています。
高齢者の喘息でも、気管支に起きている病態は基本的に若年者のそれと同じで、気管支に特殊な慢性炎症があり、そのため、気管支を取り巻く平滑筋の収縮、粘膜のむくみ、気道過敏性の亢進、痰の増加などが見られます。
しかし、高齢者の喘息では以下のようないくつかの特徴も認められます。
1. 発作がない時でも、症状や肺機能の改善が充分でなく、気管支拡張薬の反応が悪い。
2. 末梢の細い気管支の狭窄の度合いが強い。
3. 高齢で喘息を発症した方は、その後の肺機能の低下が若い喘息の方に比べて早い。
4. 長年咳やヒュー、ゼーという喘鳴がありながら、典型的な発作がないため喘息と気付かず見過ご されている場合がある。そのため早期診断、早期治療が遅れる。
5. 肺気腫症などのタバコ肺(COPD)を合併している割合が中年、若年者に比べて高い。また、肺気腫症との鑑別が困難な患者さんも多く、一般の外来検査では、正確な診断がつかないことも珍しくない。
6. COPD以外にも鑑別すべき疾患が多種類ある(うっ血性心不全、胃食道逆流、気管支拡張症、誤嚥性の気道病変、肺癌による気道狭窄など)。
7. 治療には、ステロイドホルモンの内服を必要とする重症例、いわゆる「ステロイド依存症例」が珍しくない。
8. 高血圧、狭心症、前立腺肥大、緑内障などの他の合併疾患が多い。併用薬剤も多く、副作用にも注意が必要である。
9. 飲み薬に比べ、吸入ステロイドなどの吸入薬の使用を嫌う、吸入の手順をすぐ忘れる、などがあります。
以上のような種々の要因が重なりあって、高齢者での喘息死亡率が高くなるものと思われます。
次回(その2)は、普段の生活や治療面での注意点などを述べます。