ライム病は
ボレリアというスピロヘータの仲間の一種の細菌が起こす感染症で、
マダニの吸血によって移ります。日本では、マダニの中でも足が黒い
シュルツェマダニがこのボレリアを媒介し、その保有率は4.5~21.3%と言われております。従って、実際はシュルツェマダニに吸血されてもライム病を発症しない人が大部分です。このマダニは比較的涼しい所を好み、本州では標高1500m以上の高地や山、北海道では平地の草むらでも見られます。マダニにつきましては前号、「夏、マダニに刺される人が増えてます!」をご参照下さい。
ライム病自体は昔からあったのですが、1975年に米国コネチカット州ライム(Lyme)地方で小児に集団発生した流行性関節炎の原因を追究していった結果、1982年にライム病ボレリアが見つかりこの名前がつきました。
欧米では年間数万人も罹るそうです。日本では1986年に最初の患者さんが見つかり、その後年間10数例の報告数でしたが、1999年4月感染症新法(2003年11月改定)により医師の届出義務が決まってから、最近は年間20から30例の報告数と増加しています。
この疾患は、大きく早期(感染初期stageⅠ、播種期stageⅡ)と後期(慢性期stageⅢ)に分けられます。
マダニに刺されてから10~14日後に刺された部位が赤く盛り上がった紅斑で始まり、遠心状に拡大し、大きさは数センチから数十センチ位になります。全体が赤い均一性紅斑だったり、周辺が赤い環状紅斑だったりします。これを遊走性紅斑と言い、ライム病に特徴的な初期の皮膚症状で、通常数日から数週間続きます。但し、この紅斑が出現しないこともあります。他に発熱(高熱もあり)、首の後ろの痛み、筋肉痛、関節痛、リンパ腺腫脹が見られることがあります(stageⅠ)。次に、数週間から数ヶ月経過すると菌が血流に乗って全身に拡散され、
小さな紅斑の多発、不整脈、心筋炎、顔面神経麻痺、髄膜炎、関節炎、虹彩炎などさまざまな臓器での症状と全身倦怠感が続きます(stageⅡ)。さらに感染から数ヶ月から数年しますと慢性の皮膚症状(慢性萎縮性肢端皮膚炎)や慢性関節炎、慢性脳脊髄膜炎、慢性角膜炎などを発症します(stageⅢ)。臨床病期は明確に区分できるものではなく、混在することもあります。日本でのライム病症例は、ほとんどがstageⅠの遊走性紅斑で、慢性の皮膚炎や関節炎等は報告されていません。全ての病期で抗生剤は有効ですが、時間が経つほど診断が困難となり、診断できたとしても治療期間が長引きますので、早期の治療が必要です。
診断は、マダニに刺されてもおかしくない状況があり、シュルツェマダニに刺されたことが確実でその後遊走性紅斑が出現すればほぼ間違いないでしょう。疑わしい状況と症状があっても、紅斑が出ない場合や時間が経って患者さんの記憶もあいまいになりますとライム病ボレリアに対する
血清抗体価を測定して診断します。但し、日本では
国立感染症研究所細菌部 、
静岡県立大学薬学部微生物学教室 など限られた施設でないと血清診断ができません。
治療には、
遊走性紅斑の時期にはテトラサイクリン系抗生剤が、髄膜炎にはセフトリアキソンという抗生剤が使われます。いずれも14日間は使います。他にペニシリン系抗生剤も有効です。幸いまだ、上記の抗生剤が効かない耐性菌の報告はないようです。